BYDのATTO3に試乗、中国製EVは買いなのか?考えてみた【レビュー】

2023年1月31日に中国BYDのEV「ATTO3」が日本でも発売されます。2022年には電動車市場で世界トップとなったBYDは、2023年にBEV(バッテリーEV)でもテスラを抜いてトップになることが確実視されている中、ついに日本にも上陸する1号車として、ATTO3は大きく注目されています。日産アリアB6を予約していたものの、訳あって購入を見送ることになった私にとって、ATTO3は購入検討対象ということでウォッチしてきたのですが、ようやく試乗できる機会に恵まれたので、さっそく乗ってみて、感じたことをまとめておきます。

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試乗までのあれこれ

まず初めに、BYDは日本国内でATTO3を発売するにあたって、全国にディーラー網を構築中です。しかし、発売まで1か月を切った中でも、いまだに公式サイトの販売店情報がまったく更新されず、ディーラーがいつどこにオープンするのか情報が出てこないという恐るべき状況にあります。日本車メーカーと付き合っていると考えられない準備状況ですが、中国のスピード感からすれば、走りながら考えるのは普通なのでしょうね。

関東と違って関西ではBYDのEV(ATTO3、SEAL、DOLPHIN)の実車を試乗できる機会はほとんどなく、展示さえない状況が続いていました。年明けに、私の最寄り店舗となりそうな大阪のディーラー2店のうち、「BYD AUTO EXPOCITY」は早々と2023年夏のオープンが発表されがっかりしていたところ、「BYD AUTO 堺」が展示試乗イベントを行うという情報が、イオンモール堺鉄砲町店のイベントページに掲示されたのを発見しました(ちなみに、イオンモールのイベントページなので、ブログポスト時点ではもはやイベントの案内を見ることもできませんが……)

イベントページにあったQRコードを読み込むと、BYD AUTOの公式LINEページが開くので友達追加すると、ATTO3の試乗予約サイトにアクセスできました。豊中と堺が選択できたので、堺を指定して予約完了したところ、後日、「堺での試乗はシステムの間違い。豊中での試乗になる」という一方的な案内がやってきました。事情を説明して予約場所の変更の了承を得るのが普通のあるべき対応だろうと感じますが、ここら辺も中国メーカーらしい対応といえるかもしれません(後日、ディーラー営業さんからは丁寧なお詫びの電話がありましたが)

希望の堺から豊中に変更されたことで少しイラっときましたが、仕方なし。指定されたイオンタウン豊中緑丘店に行くと、駐車場にATTO3と簡易なテントブースを見つけることができました。

外観チェック

試乗用に用意されていたのは横浜ナンバーのATTO3。カラーはカタログカラーでもあるサーフブルーでした。この色ではない違う色が見たかったのですが(残念)

外観をチェックすると、塗装のデキの良さ以上に、やはりサイドのプレスラインの美しさが目につきます。BYDが買収した日本の金型メーカーTatebayashi Moldingの技術がいかんなく発揮されている感じ。マツダやレクサスのサイドの美しさに引けを取っていません。

Cピラーの樹脂パーツにあるウロコ状の窪みは、竜をモチーフにしているそうです。

給電ポートは右フロントフェンダーにありました。個人的にはリアの方が良かったので、残念です。

乗り込もうとすると、奇抜なカラーのシートが目に入ります。写真で見たよりも落ち着いたカラーではあるものの、ブルーとグレーとベージュに赤の挿し色という独特の組み合わせ。正直言って、外装のカラーが合わせにくいと感じます。ATTO3はオプション類もないワングレード展開で、内装のカラーは選べないとのこと。質感は悪くないものの、色があまりに微妙だと感じました。

ドアパネルのパーツ類は、写真や映像で見ていたほど奇抜ではなく、個人的にはアリ。

ドアノブはカタツムリのような形状で、ホールドしやすいのですが、ドアは肘で押すという独特の使い方でした。しかし、決して使いにくいということはなく、これはすぐに慣れそうです。

縦スリットのエアコン吹出口も独特のデザイン。スマホホルダーは付けられないかも。

リアシートはフラット

センタートンネルなどなくフラットな床。マットはアウディA4のものが代用されていました。

トノカバー付きのラゲッジスペースはフラットで、荷物を出し入れしやすそうです。

フラットな板を持ち上げると、下にもかなり深い収納スペースがありました。

ちなみにトノカバーの両側の紐を外すと、軽いものを置いておけるテーブルになります。

試乗してみた

外観チェックもほどほどに試乗してみました。

モーターOFFで横向きだったディスプレイは……

モーターONで立て向きに回転。

なお、このクルマはオーストラリア仕様で、まだ日本仕様のものはディーラーには届いていないそうです。あと2週間で発売なのですが、大丈夫なのか……。

シフトレバーは飛行機のよう。ボタンを押しながら手前に引くと「D」、奥に押すと「R」で、レバー下に「P」という配置。一番手前の左ボタンでブレーキの回生の強さを2通り、右ボタンで走行モードをスタンダード、スポーツ、エコの3種類、それぞれ変更できました。ハザードがかなり使いにくい位置。左ハンドルならいいかもしれませんが、やはりセンター配置が基本だと感じます。

走ってみた感想は、1.7トンとSUVタイプのEVとしては軽めの車体もあり、スムーズに加速します。アクセルを踏み込むと、かなり力強い立ち上がりで、坂道も問題なし。パワーという点ではまったく問題なしでした。ただ、スタンダードモードとスポーツモードでは出力や駆動力のマッピングに一切、違いがないそうで、ステアリングの挙動や重さが変わるだけのようで、短時間の試乗ではほとんど違いがわからないという点には物足りなさを感じました。さらにエコモードとスタンダードモードの違いも体感できないくらいの差しかなく、エコモードで電費が上がるのなら、エコモードオンリーでよいのでは?と感じるくらいでした。ここら辺は、発売後、チューニングで変更されれば良いのですが、未知数です。

サスも良く動くわりに挙動をうまく抑え込むので、少しの段差も問題なくいなしてくれます。ハンドルも思ったよりも切れるため、Uターンもそれほど苦ではありませんでした。フロント両サイドの見切りも良好で、走りの面ではまったく不満なく、ICE車に乗っている人ならばほとんどの人が「ものすごくよく走る」と感じるはず。現状のEVユーザーからも大きな不満は出ないくらいの出来だと感じました。

ただ、走行時に出る謎の「音」が非常に気になりました。歩行者に近接を知らせるゴースト音とはまた違う音で、やたら耳につきます。車外だけでなく車内にもスピーカーから出しているようで、個人的には違和感がありました。現状、この音はミュートにできないようで、仮にこの音を低速時は常に聞かされるとなると、「私はATTO3には乗れないかも……」と感じるくらいの違和感のある謎の音でした。今後、改良されれば良いのですが、どうでしょうか……。

なお、メーター類は小さなモニターに集約されていました。サイズはかなり小さめですが、情報量を考えると必要十分です。

試乗途中でグラスルーフを開けてみましたが、ドライバーや助手席の視界にはまったく入らないので、リアシートの人のためのもののようです。センターにピラーもない大きなガラスなので、リアシートに座った時の解放感はかなりありそうでした。

買いなのか?

ATTO3の良いところは、車両価格440万円(税込)に85万円の補助金が出ることから、実質355万円という安価である点です。リーフが値上げし、アリアも値上げが見込まれる中、IONIC5も真っ青なATTO3の値付けは大きな武器となると思います。ワンプライスでオプション全載せと考えると、なおのことコストパフォーマンスは高いと言えます。ただ、350万円のクルマと言えばハリアーやエクストレイルなどと価格帯が同じですが、これらのクルマに比べると、インテリアの質感という点ではやはり劣ります。とはいえ、バッテリーに100万円ほどの価値があると考え250万円帯のクルマとしてみれば、決して安っぽいということもないと思います。

リン酸鉄リチウムイオンを使うBYDのブレードバッテリーは、うたい文句通り高耐久性と安全性を兼ね備えているとすれば、リーフやアリア、IONIC 5よりもお手頃な価格のEVとして、非常に商品力のあるクルマだと思います。EVらしい力強くスムーズな走りは、ICE車では決して得られないもので、ATTO3は価格に見合う価値があると思います。

デメリットはやはり、中国EVという信頼性への不安です。ディーラー網をしっかり構築している点では現代のIONIC5とは比較にならないくらい安心ですが、アフターサポートに関しては未知数です。また、リセールバリューという点でも不安は残ります。オペレーションもディーラーに任せているようで、品質管理がどれくらい整えられるのか、ふたを開けてみなければわからない面もあります。テスラのようなブランド力を、今後、BYDがクルマの出来だけでなくサポート体制を含めてしっかりと築いていけるかどうかに、日本市場での成否はかかっていると思います。

アウトランダーPHEV(GG3W)に乗っている私が乗り換えようと思えるほど魅力があるか?というと、「見送り」というのが試乗してみた感想です。大きな理由は「走り」です。スポーツモードの力強さが、正直なところGG3Wと同等程度、リーフNISMOスポーツリセッティングには確実に負けます。また、4駆技術という点でも、三菱のS-AWCや日産のe-4orce、トヨタのダイナミックトルクベクタリングなどの既存の自動車メーカーの技術にはまだまだ追いつかない状況で、EVでも加速だけでない走りを楽しみたい人にはATTO3は物足りないと感じそうだからです。

特に、デリカD:5を追加で購入して以降、私の場合は別に1台でなんでもできるSUVでなくても良いという状況になったので、走りの良さそうなセダンタイプのSEALの方が、ずっと魅力的に感じています。フラッグシップモデルとしてラグジュアリーで大容量バッテリーを搭載するSEALですが、BYDなら600万円前後に価格を抑えてくるのではないかという期待ができます。SEALは令和5年度CEV補助金は間に合わないので、純粋な価格がより重要になるでしょうから。SEALやコンパクトカーDOLPHINに期待しつつ、まずはATTO3をどう普及させていくのか、アフターサポートなども含めて、2023年のBYDには大注目です。

~おまけ~
試乗後、ディーラーの担当者にいろいろ話を聞きましたが、「BYD AUTO 堺」は2023年2月17日(金)にオープン予定で、1月31日のATTO3発売日には開店が間に合わないとのこと。また、気になっていた場所ですが、イオンモール堺鉄砲町の1Fに入るという、国産ディーラーではなかなかない試みをするそうです。とにかく認知を獲得すべきフェーズのBYDなので、車格も立派で見栄えのするATTO3をイオンモールに訪れる多くの人の目に留まるようにという戦略は、かなり賢いと感じます。とりあえず、オープン日に遊びに行こうと思います。

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